「時の娘」(ジョセフィン・ティ)

 捕り物中に足を骨折したスコットランド・ヤードの刑事が、入院中にリチャード三世の甥の少年殺し(塔の王子たち)について、リチャード三世の無罪を推理する小説です。リチャード三世の復権運動の先駆けともなりましたし、日本でも江戸川乱歩の評価も高く、高木彬光も手法を真似したという事のようです。

 薔薇戦争に関して興味を持った時に読もうかと思ったのですが、チューダーをチュードルと書いてある古臭さに止めてしまっていました。私はこういう点が気になります。チュードルとか、ミュッレルとか。それと、ちょっと違いますが、私はヒットラーと書いてある書物は信用しないことにしています。大抵は大して詳しくない癖に人から聞いたような事を得意げに書いてある書物が多いためです。

 ところが、万札を崩すために本を買おうかなと思った時です。最初は映画も観ていない癖にゲームをプレイだけした事があるDUNEにしようかと思ったのです。でも3冊ある装丁が揃っていません。どうも上巻は新しい映画のスチルを使っているようです。不揃いなのもやだなと思った時、「時の娘」に目が行きました。どのみち万札を崩さないといけないので買ったのです。

 とても面白かった。

 私はリチャード三世が塔の王子たちを殺したとは思っていません。それは、ラインハルトがエルウィン・ヨーゼフ二世を持ってあましたのと同じ理由です。むしろ、ヘンリー・チューダーの方が怪しい。と言っても、彼本人ではなく、母親のマーガレット・ボーフォートが下手人だったと思っています。この女性は13才でヘンリー・チューダーを生み、子供は彼一人。溺愛していたようです。まあ、13才での出産ですからかなり大変だったようで、その分溺愛するのも仕方がないでしょう。旦那は12才のマーガレットとあれこれしたという事で、ロリコンだったんだろうな。

 それはさておき、「時の娘」では、私が読んだ史料よりも多くの物を使って、別の考えに行きついていました。なので、刺激を受けました。こういう本は好きです。チュードルだけは残念です。訳が1975年という事で仕方がない。が、訳が古いのは時代背景の違いもあるので、ちょっと敬遠気味です。

 読んでいる最中は、表紙を外しているのですが、それは惜しかったと思いました。読んでいる最中に、時々、表紙のリチャード三世を観てみたかった。読後に表紙をかぶせた時にジーっとしばらく(具体的に45秒)観たら、なんとなく穏やかな顔に思えてきました。