「嘆きの王冠 THE HOLLOW CROWN」

 シェイクスピアは史劇と呼ばれる劇をいくつか書いていますが、その中でも長い期間を扱った一連の作品「リチャード二世」、「ヘンリー四世(第一部、第二部)」、「ヘンリー五世」、「ヘンリー六世(第一部、第二部、第三部)」、「リチャード三世」を舞台劇ではなくテレビドラマ風に作成したものが「嘆きの王冠 THE HOLLOW CROWN」です。イギリスのBBCが作成したもので、2012年と2016年に放送されたようです。ちなみにヘンリー六世だけは三部作ではなく二部作になっています。それぞれ120分以上のものですが、この連休中に一気見してしまいました。

 さすがに本場イギリスで作られただけあって、大自然の地形や植生が非常にイギリスらしいです。また、詳しくはないのですが甲冑や戦闘シーンもそれっぽく作っているのではないでしょうか。それに配役もヘンリー六世とかウォリックやサマセットなどは、なかなかいい感じでした。ヨーク公リチャードは、肖像画から見ても、もう少しハンサムでもよかったのではないかという気がします。とはいえ、これはちょっとという配役もありました。

 若かりしヘンリー・ボリンブルックと老境のヘンリー四世は別の俳優が演じていますが、あの顔がこんな顔になるのかなという感じでした。まあ、NHK大河でも、この子役が大人になっても、こんな顔にならんだろというのもいますが。それに「江」では、5~6歳なのに大人の俳優がやっていて、思いっきり見る気をなくしましたが。

 まあ、ヘンリー四世はまだいいとして、二代目ヨーク公は「リチャード二世」では白人の青年がやっていたのに「ヘンリー五世」では黒人がやっていたのは今一でした。まあ、黒人自体はローマ時代のブリテンにもいましたので問題ないですし、母親はカスティーリャ王女ですので黒人の血が入っているかもしれませんが、同じ人物を別の人種にするのはどうでしょうかね。脇役なので連続して見なければ気が付かないかもしれませんが。

 それと、うろ覚えですが、シェークスピアのシナリオとは少し変えているところもありました。リチャード二世は何も言わずに死んでしまいましたし、ボスワース前夜の亡霊によるヘンリー・チューダーに対する祝福シーンがなかったし。

 尺が短いので2つの戦いを混ぜたりしているのは仕方がないでしょう。それよりも、私はアザンクールの映像作品は初めて見ました。重装騎兵の集団突撃がいい感じです。その他の戦いでは重装騎兵がほとんど出てこなかったのは、やはり長弓のせいでしょうね。

 ドラマとしては、やはり舞台劇と違って背景の人々がきちんと描かれているのがいいと思います。市街の雑踏、戦場の兵士。これらは舞台劇では省かれる愛すべきモブたちですから。

 その他、連続してみて気が付いたのですが、「リチャード三世」では、やたらリチャードがカメラ目線で視聴者に語り掛けるようなシーンが多かったです。他の作品では、モノローグは言葉だけだったり、カメラを引いていたりしており、リチャードのようにアップでセリフを吐くことはありませんでした。どこかで「王になった後のリチャードが滑稽に思える」と書いてありましたが、王になる前も案外面白い感じです。そうして見ると、もしかしてシェイクスピアが「リチャード三世」で表現たかったのは、リチャード三世を悪役にするのではなく、むしろ愛すべき道化としたかったのではという気もしてきます。