文民統制について

 前に書いた『GROUNDLESS』の10巻で、登場人物が「そもそも文民統制って何だ?一体何を基盤にしたシステムだと思う?」と言っていました。確かに、武を持つ者を、武に対する知識も経験もない文官が制御するのは変な気がします。「ペンは剣よりも強し」などと言いますが、マスコミの強がりであることは歴史が証明しています。「虎の威を借る狐」も虎がいてこその話。にもかかわらず、文民統制が当たり前のようになっています。ホントにいいシステムなの?
 物事を善悪で捉えるのは意味がありませんが、良否で捉えるのはいいかと思います。なのでちょっと考えてみました。

 

文民統制は歴史的に進化したシステムなのか?
 中世以前、というよりナポレオン戦争以前は、政治は国王や貴族といった武を持つ者が行っています。戦争の開始や終了の判断も同じ。なので、この時代までは文民統制はありません。ただし、イギリスは異なります。イギリスは首相(ピットとか)や議会が軍人を統制していました。アーサー・ウェルズリーやネルソンは政治に関与していませんよね。
 南北戦争は、両軍とも文民統制が行われていたと思います。特にリンカーンは半島戦役時にマクレランから無断でワシントン防衛兵力を取り上げています。・・・マクレランがやる気をなくしたのも分からないでもない。
 以降は概ね文民統制が機能していますが、太平洋戦争時の日本とかは別ですね。ヒトラーも確か全軍の指揮官であったので文民統制とはいいがたい。その他、ミャンマーの軍事政権や北朝鮮将軍様も違う。となると、考えられるのは議会政治が行われている場合に文民統制が機能しているという事でしょうか。独裁政治では不可能ですかね。独裁者は武力を持たないと安心できないでしょう。
 議会制と独裁制を考えた場合、歴史的には議会制の方が後で発生しています。古代ギリシャアテネの民主制やローマの共和制も議会制と言えるかもしれませんが、どちらもそれ以前に独裁制があります。では、議会制は独裁制より進化しているのか?
 独裁制から議会制に移行したのは、統治すべき民衆の数が増えて利害関係が複雑になったためと思われます。誰かが民衆の利害を調整しないといけないのですが、個人(あるいは少数)では調整しきれないため、不満が個人(あるいは少数)に向かいます。故に独裁制では数が多くなった民衆を制御しきれなくなるのでしょう。議会制は大多数の不満を最小限にする努力がされるので、不満を持つ人の数が少なくなり、議員に対する反抗についてさほど気にする必要がありません。・・・まああまり良い事ではないのですが。
 そう考えると議会制=文民統制は、人類の数が増えていくという事を考慮すると、歴史的に進化したシステムであると言えそうです。

 

文民統制はシステム的に良いのか?
 では、文民統制システムの利点と欠点について考えてみます。
利点)
武官が戦争の開始や終了を考える必要がない(戦う方法だけ考えていればいい)
軍事を弄ぼうとする軍人を排除できる
軍国主義的な閉塞感がない(秘密警察や密告等)

欠点)
決定が遅くなる(衆愚)
議員(=民衆)の感情による開戦が強制される
文官は戦争に対する知識や経験がないため、開戦を安易に考えやすい
予算・資源配分の公平性欠如で適正な戦力保持が困難になる(保険的な軍備より目の前の災害対応等に割かれる)
文官と武官で戦争についての共通認識が生まれにくい(拠って立つ基盤が違う)
文官の能力・質は把握しにくい(武官は戦闘の勝敗で分かりやすい)

 

 ぐう。なんか欠点の方が多い?いや、もっと考えを深化させる必要がある気がします。

 

文民統制は何を基盤に置いたシステムか?
 『GROUNDLESS』の中で、作者の考えが載っていますが、それは取り合えずおいておいて。
 見てきたように歴史的には進化したシステムとはいえ、最良のシステムとは言えないようです。それなのに、なんで採用されているのか。
 太平洋戦争の前に山本五十六が「半年や一年は暴れてみせる」と言ったというのは有名ですが、その意図はいろいろと解釈されているようです。私は、やはり軍人は戦ってこそ存在理由があるので、山本五十六も海軍は戦えるのだという事を示したかったのではないかと思います。軍事を弄ぶというほどの事ではないでしょうが。
 手にしている物を使ってみたいという欲求は当然あるわけでして、軍人が武力を使用するかしないかを決められるのでしたら使用する方に傾斜するのは当然と思います。文民統制なら、それに制御をかけられます。
 そういった事を民衆が期待することで文民統制システムが成り立っているのだと思います。
 ただし、上記の欠点にあるように、民衆が開戦を期待するようになった場合、軍人が不可だと思っていても戦争が起こります。ここにこそマスコミによる世論操作が大きく関わってきます。マスコミが商業主義に陥った場合、民衆迎合と世論操作の相乗効果で一気に開戦へ進んでいくのは日露戦争や太平洋戦争でも経験済みです。

 

 うーん。結局、最良のシステムというのは何なんでしょうかね。まあ、まだまだ勉強不足なので、とりあえず今の段階ではここまででしょうか。利点・欠点ももう少し考えてみたいと思います。