「The Last Hundred Yards」(GMT)

 昔は戦術級というと難しそうで、結局手を出しませんでした。昔買ったゲームで戦術級と言えるのはツクダの「ニュータイプ」とかデュアルマガジンの付録とかでしょうか。これは戦術級というべきなのか、格闘級あるいは戦闘級でしょうか。あー、後は「アレクサンダーズ・トライアンフ」も戦術級かなぁ。それぐらいなので、ほぼ作戦Qの人間でした。

 しかし、歳をとってASLぐらいは試してみてもいいかな、と思って始めたら、それなりにプレイできています(うまくないですが)。そんなわけで、戦術級のシステムにも興味を持ったのでした。ASLはSKから入って、ASLにもちょっと手を出しましたし、HEXASIMの「Great War Commander」もちょっとやって、Men of Ironシリーズとか。そんな中で、GMTの「The Last Hundred Yards」の手を出してみたのです。Compassの「Combat!」も気にはなっていますが、まだ手を出していません。

 このゲームは、他のゲームと比べるといくつも特徴があります。

 

①勝利条件が特殊

 大体がヘクスの支配とか敵の除去が勝利条件のゲームが多いです。このゲームもそうなんですが、プラス時間が条件に入っています。他のゲームではターン制限で時間を条件に入れていますが、このゲームではターン制限がありません。

 このゲームの一般的な勝利条件(ゲーム終了条件)は、ヘクス支配や敵味方の損害の差に加え、一定の時間が経過したら終了してVPを比較します。損害を低く抑えつつ、短時間で任務の目的を達成すべきというデザイナーの考えです。

 で、時間経過なのですが、1ターン何分という考えではありません。毎ターンの終了時にダイスを振って経過時間を決めます。いわゆる変動時間制。デザイナーは、戦場で兵士が感じる時間は1ターン何分と計れるものではない、というような事を言っています。ある瞬間は長く感じ、別の時には短く感じると。プレイヤーに対して、より戦場の兵士の気持ちになってほしいという事でしょうか。

 とはいえ、ダイスの期待値で概ね1ターンの時間を読めます。最初の「任務1」シナリオでは、ドイツ軍の勝利はVP(というより損失ポイントみたいなもの)が35以下で、時間経過の期待値は3.5分なので、概ね10ターンあると見なせます。それ以上時間がかかると引き分け。45以上ですとアメリカ軍の勝利です。45分はおおむね15ターンです。不幸が重なると(ダイスの出目が悪いと)もっと短くなりますが。むろんVPは時間経過だけではないので、味方の損害を押さえて敵の損害を増やせば多少時間がかかっても取り戻せます。

 

 さて、「任務1」シナリオを試してみます。

 時は1944年12月、所はアルデンヌ。アメリカ軍がこもる村にドイツ軍が攻めてきます。

 以下がマップです。サイズ感としてはASLの標準マップの半分ぐらい。ただし、1枚はA3サイズなので、ヘクスは大きいです。

 北が左側、緑の枠があるヘクスが目標ヘクス(教会)で、プラス木造建物5つをドイツ軍が支配すれば、その時点で勝利します。アメリカ軍の初期配置は赤丸があるヘクス列の左側(北側)で、ドイツ軍は右側(南側)からマップに進入します。

 部隊はアメリカ軍が3個分隊+1個MG班、ドイツ軍が6個分隊+1個MG班。圧倒的ではないか、わが(ドイツ)軍は。

任務1のマップ

 さて、アメリカ軍の作戦計画です。初期配置列の右側の2つの木造建物はドイツ軍に支配されると考えるべきでしょう。残り3つの木造建物と教会を守備する必要があります。最低でも教会さえ手中にあれば何とかなります。

 ちなみに、一番最初にお試しプレイした時は、森に全ての部隊を配置したら、ドイツ軍が中央に圧力をかけつつ東西(マップの上と下)から1個分隊ずつがすり抜けていきました。ドイツ軍は2倍いるのでもっと分散しないといけませんでした。取り合えず以下のように配置します。中央の指揮官の下にMG班がいます。このゲームは射程距離でDRMが付くので、MG班はマップ上下の両狙いです。片方に寄せると、もう片方にDRMが付いちゃうので、でも後で考えたら道を挟んでマップ上の建物の方がよかった。

 

 ドイツ軍は、2個小隊(各3個分隊+指揮官)をマップ上下に、MG班はその間から進入させようとします。マップ上側が第2小隊、マップ下側が第3小隊です。ちなみにユニットの能力は微妙に違っています。ASLの様に画一ではありません。分隊が死傷して班になった場合、入れ替えるユニットは同じ小隊の複数の班からランダムで引いてきます。

 第2小隊はそのまま北を目指し、第3小隊は中央を主攻として1個分隊をマップ下側に移動させます。一番最初と同じパターンです。

初期配置とドイツ軍の作戦

 ではスタート。

 このゲームは、活性化フェイズ、射撃フェイズ、強襲フェイズと続いています。肝は活性化フェイズです。ASLなどでは、プレイヤーターンが交互にありますが、このゲームでは、活性化フェイズの中で、ダイスを振り合い、大きな目を出した方が1個小隊活性化します。この時、ゲーム全体の攻勢をとっている陣営には、DRMが付きます(直前の活性化で主導権をとった場合のみ)。これはモーメンタムを表すそうです。ゲームの最初の時はどちらが活性化するかはシナリオで決まっています。今回はドイツ軍が攻勢なので、初手はドイツ軍です。まず第3小隊を動かしました。次に、その移動をLOS内に捉えているアメリカ軍のユニットがリアクションします。

 ここで、他のゲームとの違いがあります。

 

②臨機射撃は1ヘクスごとではない

 ASLもGWCも、移動1ヘクス毎に相手プレイヤーに臨機射撃するかどうか確認します。しかし、このゲームは移動した(あるいはそれ以外のアクションをした)後でリアクション(射撃や移動など)するか確認します。今回、第3小隊の2個分隊+指揮官が中央の木造建物に移動しました。その後、アメリカ軍のリアクションで正面の森にいるユニット(第3分隊)が射撃します(射撃の解決は射撃フェイズ)。まあ、ASLですと、この位置関係では移動中は木造建物でLOSが妨害されて、どのみち撃てませんが。

 

 ドイツ軍第3小隊の移動が終了した後、再度イニシアチブダイスを振ります。この時、ドイツ軍は直前の活性化を得ていますのでDRMが付きます。なので、やっぱりドイツ軍が活性化します。残りは第2小隊だけなので、第2小隊とMG班を動かします。MG班はどちらの小隊の指揮下ではない支援ユニットですが、支援ユニットは近くの小隊と一緒に活性化できます。

 第2小隊は、2個分隊+指揮官が正面の木造建物に、MG班と1個分隊が森の端に移動します。アメリカ軍のリアクションは木造建物に移動した2個分隊に対しての射撃です。ちなみにLOSは8ヘクスなので後方にいるMG班も撃てはするのですが、6ヘクスの射程では-3DRMが付くので効果が薄くなります。

 

 ドイツ軍は活性化できる小隊がなくなりましたが、アメリカ軍の活性化が残っています。とはいえやることが無いので、連続パスで活性化フェイズは終了です。

第1ターンの活性化フェイズ終了時

 次に射撃フェイズです。活性化フェイズに射撃を受けたユニットの上に数字のついた緑のカウンターを載せています。数字がDRMで、このカウンター(射撃1回に1つ乗せられる)ごとにダイスを振ってDRMを適用し、そのヘクス内の最も結束力が高いユニットの結束力値と比較して出目が大きければ混乱となります。混乱した奴がさらにチェックに失敗すると死傷(ステップロス)します。結束力値は各ユニットの右下の数字です。ドイツ軍で最良は7、最低が5です。ここが小隊ごとに異なります。

 射撃を受けているドイツ軍は両方とも最高の結束力値が7です。そして両方とも射撃は1回しか受けていませんので、1回ずつダイスを振ります。結果はどちらも成功しました。

 ちなみに複数回射撃を受けていても、結果の適用はその中の最も悪い結果のみです。なので、1回の射撃フェイズで、チェック失敗で混乱→追加のチェック失敗で死傷→さらに追加のチェック失敗で除去、などといった事は起こりません。

 

 さて、第1ターンは終了です。現状、死傷(ステップロス)は無いので、死傷トラックは±0のままです。死傷トラックの大きい数値がVP、小さい数値がステップロス数です。ですので、4ステップロスするとVPが変動します。次が6ステップロス、その次が9ステップロスです。

 時間トラックで時間経過をトレースします。左下の方に時間経過ダイスロール表があります。今回は7が出て、4分経過します。ちなみに3時間までトラックがありますが、そんなに長丁場なシナリオってあるんでしょうかね。

ターントラック(第1ターン終了時)

 時が少し進みます。第3ターンです。双方撃ち合った結果、森のアメリカ軍は混乱状態。ドイツ軍がマップの上の方をすり抜けていこうとしています。一方、マップの下の方は後方のアメリカ軍がいるのでちょっと進軍しづらい。マップ中央の木造建物にいるドイツ軍も1個分隊が混乱、1個分隊は死傷して班になっています。

第3ターン開始時

 活性化フェイズ終了時。森にいるアメリカ軍に対し、ドイツ軍1個分隊と指揮官が強襲をかけます。

第3ターン活性化フェイズ終了時

 射撃フェイズ終了後に、強襲フェイズで強襲を解決します。強襲とはつまり白兵戦です。双方の右上の青枠の中の数値(強襲値)の合計と最高結束力値の差などがDRMとなり、1ダイスロールで結果を求めます。結果は、最大4ヘクス退却、結束力チェックなどの他、車両があれば破壊の試みなどが行えます。

 強襲の結果、アメリカ軍は分隊から班になり4ヘクスの退却、ドイツ軍は戦闘後前進できました。

 賽の目が悪いと攻撃側が退却しなければならないこともあります。ASLの様にMelee状態になることはありません。必ず決着が付きます。

第3ターン強襲フェイズ終了時

 さらに時が進んで5ターン開始時。ここまで13分が経っています。ドイツ軍は4つの木造建物を支配し、ステップロスはドイツ軍2、アメリカ軍1。まだVPには影響しません。ドイツ軍勝利までは木造建物1つと教会を支配する必要があります。一方、アメリカ軍は45分まで粘れば勝利できます。ステップロスが多くなければですが。混乱している分隊と指揮官を回復させないと辛いですね。最終的には教会での白兵戦になることでしょう。ドイツ軍はゆっくり射撃を繰り返して消耗させ、最後に複数方向から強襲(複数ヘクスから強襲すると有利なDRMが付く)。

第5ターン開始時

 このシナリオは、バルジですのでアメリカ軍がちょっと辛いかもしれません。が、最終的には教会を支配しないといけないドイツ軍としては、この石造建物のTEM-3は結構つらい(木造は-2、森は-1)。アメリカ軍の結束力値6に対して-3のDRMですと、射撃値が1なので9以上出さないといけない。そういえば言い忘れていましたが、ダイスは10面で、0は0ではなく10です。個人的に10面ダイスの方が確率計算しやすくていいですね。2D6は計算しにくいうえに確率がばらつきますので、10面ダイスの方が優れている気がします。昔は精度のいい10面ダイスは作れなかったのでしょけれど、今は6面より10面の方がいいんじゃないかな。

 

 プレイしてみての感想ですが、とても面白い。1ヘクスずつ臨機射撃の確認をしないのでサクサク進みます。とはいえ、やはり戦術の基本、見つからないように動いて先に見つける、というのはちゃんと表現されています。各ユニットとも1ターンに実施できるのは1アクションだけですので、いつリアクションすべきかといった事を考えるのも、結局臨機射撃するかどうか考えるのと同じです。

 デザイナーは、臨機射撃を1ヘクス毎に確認する必要はないと考えているようです。ずっと敵が動くのを銃を構えて待っていて、動いたとたんに射撃する、というのは現実的ではなく、実際には突然敵が道路をダッシュで渡るのに対して素早くリアクション射撃できるものではありません。その敵だけを見ているわけにもいきませんから、どうしても対応が遅れるはずです。そういったことを表現したかったのではないかと思います。

 そんなわけで、ASLとは異なる表現方法ではありますが、それでも適切な戦術級ゲームだと思います。