「蒙古襲来の真実」(北岡正敏) 

 多くの歴史学者は、「八幡愚童訓」という宗教パンフレットの記述をベースにした元寇像を世に広めてきました。このため、多くの小説家やマンガ家が間違った事を日本人に広めている。それを正す。という意思の元に書かれた本です。そして、他の本と異なるのは、それを数値をベースとして論破していることです。例えば、元の船に何人の兵士が乗っていて、それらがバートル(上陸用の小型船)に乗り移るのに何分、陸上まで漕いで行くのに何分、それが1日に何往復するから、どれぐらいの兵士が上陸できたか。それに対する、日本軍の兵士の数はどれぐらい。などなど、上陸軍の補給についても、どれぐらいのトン数がどれぐらいの時間で陸揚げできるかなどを細かく計算しています。

 数値データを基にした論は強いです。私は会社に入った時に先輩に「データを持つ者が強い」と教わってきました。ま、わが社はデータを持っていてもそれを活用できないのでダメダメですが。そんなわけで、数値をもとにしたこの本は、なかなか良いと思って買ったのです。

 でもまあ、大本となる数値が推定値であるので、その辺が今一でした。例えば、日本の長弓はモンゴルの短弓よりの優れているとしています。それは賛成です。でも、射程距離や命中率を三十三間堂の通し矢をするような人をベースにするのは如何かと。弓の習熟は結構大変と聞きます。なので、実際にそれほどの命中率があったかどうか。それに、弓兵となる人数も過大に見積もっています。多分まともに弓を射ることができるのは騎乗兵他数人で、後の郎党は弓は使わなかったか、命中率は度外視されていたかだと思います。

 また、日本の船の数も、西国で各国が何隻保有しているから、何隻投入できたと推定していますが、全部の船を送ったわけでもなく、また、博多に集中したわけでもないでしょう。小型船は回送の難易度の問題もありますし。

 そんなわけで、手法は素晴らしいと思うのですが、ちょっと残念な部分もあります。残念と言えば、結構誤字が多いので、ちゃんと校正したのか疑問です。また、査読もしたかどうか。

 あと、この人、八幡愚童訓を否定していますが、やたら「神国日本」とか言う人です。また、中国は朝鮮(高麗)をぼろくそに言いますが、中国の大学の客員教授です。結構矛盾の多い人のようです。そういえば、ベトナムは日本の恩人と言って評価がすごく高い。一方、現代日本人はダメだと言っていますね。