『Sun of York』(GMT)から「バーネットの戦い」

 カードゲームつながりで、『Sun of York』(GMT)です。ゲームデザイナーはMike Nagelです。Mike Nagalといえば『Flying Colors』や『Captain's Sea』をデザインしていて「海の漢」の様に感じます。『Captain's Sea』に入っていたLEGION WAR GAMESの新作のチラシでも古代ギリシャガレー船の戦い『NAVARCHOI』が発表されていましたが、同時に英仏百年戦争の陸戦を題材にした『Chivalry at Bay』も発表されていました。詳細は分かりませんが、もしかしたら『Sun of York』と同様にカードゲームなのかもしれません。

 

 タイトルの「Sun of York」とは、シェイクスピアの史劇『リチャード三世』の冒頭の部分のセリフです。「ヨークの太陽によって、春が訪れる」というのを「ヨーク公の息子」と掛け合わせています。前王ヘンリー六世と息子のエドワード王子が死んで、ヨーク側による安定した治世が始まったことを言っています。つまり、このゲームは「薔薇戦争」のゲームです。

 

 薔薇戦争についてざっとおさらいすると、ヘンリー六世の治世下、ヨーク公白薔薇:王族)とサマセット公(赤薔薇:寵臣)との争いから始まります。緒戦の第一次セント・オールバーンズ戦(1455年5月22日)でサマセット公は敗死しますが、その後、ウェークフィールド(1460年12月30日)でヨーク公が敗死します。ヨーク公の息子マーチ伯エドワードがエドワード四世となり、タウトンの戦い(1461年3月29日)で勝利してランカスター方を国外に追い出します。ここまでは「キングメーカー」ウォリック伯は一貫してヨーク方でした。ところが、女好きのエドワード四世が、ウォリック伯がまとめたフランス王家との縁談を反故にして、小貴族の未亡人と秘密結婚してしまいます。2022年2月12日(本日)現在のアニメ「薔薇王の葬列」がちょうどこのあたりです。怒ったウォリック伯はエドワード四世を国外に追い出し、ヘンリー六世を復位させます。エドワード四世は勢力を盛り返し、イングランドに上陸してウォリック伯を討ちます。これが「バーネットの戦い(1471年4月14日)」です。その1か月後、テュークスベリーの戦い(1471年5月4日)で、ランカスター王家の王子エドワード(同じ名前なのでややこしい)を敗死させ、次いでロンドン塔に幽閉していたヘンリー六世を殺しました。「Sun of York」のセリフはこの直後のものです。この後、約10年のヨークの春がやってきます。

 

 バーネットの戦いは、その経過が結構面白いです。

 霧の中で両軍が陣を組んだため、戦いが始まると、実はズレていたことに気が付きます。互いに少し右側によっていたのです。「Men of Iron」シリーズの『Blood & Roses』(GMT)のバーネットシナリオの初期配置を見るとよくわかります。

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「Blood & Roses」のバーネットシナリオ初期配置

 戦いが始まり、互いの右翼が相手の左翼に対して側面に回り込み優位に戦いを進めます。オクスフォード伯の軍がヘイスティング卿の軍を撃破し、追撃した後で戦場に戻ってきました。ところが、オクスフォード伯の紋章がエドワード四世の紋章に似ていたので、ランカスター方はヨーク方の援軍が来たと思ってオクスフォード伯の軍に戦いを仕掛けてしまいました。同士討ちによって混乱したランカスター軍に対し、エクセター公の軍を撃破したグロスター公の軍が回り込んできたため、ついに潰走してしまいました。その最中に「キングメーカー」ウォリック伯は討ち死にしてしまいました。

 

 さて、『Sun of York』です。カードゲームですので、貴族カードや兵士カード、地形カードにスペシャルカードと、カードでプレイします。マップボードはありません。個人的にはマップボードがあった方がよかったなと思います。下記のようにエリアを分けてプレイします。基本的には中央の緑色3列9マス(左翼、中央、右翼)で戦い、横の肌色は側面を表しています。側面は移動するのに多めにオーダーポイントが必要です。

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戦場

 貴族カードの例です。名前の下、左の赤い旗の所に書かれている数字がオーダーポイントです。1ポイントで移動1マス、2ポイントで側面移動1マスです。右下に陣営の薔薇の色が描かれています。

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貴族カード

 兵士カードです。Cohesionの数値が戦闘時に振れるダイスの数で、士気チェックの成功値とカードの耐久値も兼ねます。その上のAbilityは、戦闘時のダイスの目がこれ以下なら相手に1ヒット与えます。Cohesionの右下に「-1」が付いているのはエリートで、ダイス修正値です。一番左下の四角はマップボードの移動可能マス数です。

 射撃ユニットはAbilityの数字が2つありますが、赤い方は長距離射撃(隣マスへ攻撃)です。

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兵士カード

 地形カードです。初期配置します。初期配置しない場合はオーダーポイントとして使います。

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地形カード

 スペシャルカードです。いろんな効果があります。一番右の「A Warwick!」は「ウォリックが来た!」とでも訳すのでしょうか。ただし、バーネットシナリオでは使えません。左の「ヘンリー六世」もヘンリー六世の妃「マーガレット・オブ・アンジュー」もバーネットシナリオでは使えません。オーダーポイントとして使います。

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スペシャルカード

 さて、初期配置するカード(貴族や地形)以外のカードをシャッフルし、16枚ドローします。左翼、中央、右翼に4枚ずつ、手札で4枚分けます。

 ヨーク方は以下の通りです。

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ヨーク方の初期配置

 ランカスター方(ウォリック伯)は以下の通りです。中央にウォリック伯、右翼に「壁」があります。

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ランカスター方の初期配置

 プレイシーケンスは、最初に1Dずつ振って先手を決めます。今回はランカスター方の先手です。士気チェック、戦闘、移動、捨て札の順に行います。士気チェックはヒットを受けていないのでパス、戦闘は同じマスにいないのでパス。ですので、オーダーポイントが沢山あるので中央のバトルフィールドに歩兵を1マス移動させます。手札から「2」×3枚使います。使ったカードは捨て札にします。

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ランカスター方の前進

 ヨーク方は、士気チェックはパス。戦闘は弓兵が長距離射撃できます。天候が「霧」なので、長距離射撃Abilityは-1されダイス1のみヒットです。すべて外しました。

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ヨーク方の射撃

 ヨーク方も前進し、中央のバトルフィールドでは戦いが激化します。骸骨マークのマーカーがヒットマーカーです。士気チェックの時にこれが付いているカードのチェックをします。失敗すると後退します。後退できないと除去です。成功した場合はそのマスのとどまりますが、Cohesion(=戦闘時のダイス数)がヒット数分減っていきます(累積)。

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ヨーク方の前進

 そして、しばらくして・・・。互いの右翼が前進しています。実際の戦いの通りです。

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両軍とも右翼が前進している

 最終的には弓兵が多いヨーク方が押し勝ちしました。弓兵は隣接マスを攻撃でき、ヒットを与えると士気チェックで後退しなければならず、押し込めば後退できず除去されます。また、ランカスター方はオーダーポイントカードがなかなか出なかったのも敗因でした。

 

 ナポレオン戦争以前の左右中央に分かれた戦いに、結構適合する気がします。ルールも少なく、そんなに難しくありません。また、ヒストリカルシナリオだけではなく、自作シナリオも可能ですので、「王達の宴」とか言ってヘンリー四世からヘンリー七世まで全部出したりすると面白いかもしれません。百年戦争のゲームも同じようなシステムなら、「白い少女と黒い王子」とか言ってジャンヌ・ダルクエドワード黒太子とかでバトルしても面白いかも。