『刀伊の入寇』(関幸彦)を読んで

 中先代の乱と同様に、教科書では一行ぐらいしかかかれない事件ですが、気になっていたのです。ちょうど新書で出ていたので買って読みました。

 刀伊の入寇は、1019年に女真族壱岐対馬・九州北部に来襲して悪さをしまくった事件です。ちょうど1000年前の話ですね。時代は平安時代で、藤原道長の時代です。

 その中で、捕虜となった庶民の話が出ていました。名前も残っています。名もなき庶民で終わるはずでしたが、この事件に出会ったことで名が残ったのです。ちょっと感慨深い。

 この刀伊の入寇という事件は、今でこそ教科書一行ですが、承久の乱の直前に書かれた愚管抄でも、前九年の役、将門の乱と合わせて書かれているぐらい、当時から鎌倉時代までずっと記憶に残っていた大事件だったのです。刀伊とは東夷のことで、高麗から見た女真族のことが伝わって言葉が変化してできたようです。愚管抄では「とうい」と書かれているようです。

 この本自体は、刀伊の入寇が主題というよりは、律令軍制から武家政権への過渡期としてこの事件を絡めて書いています。律令制(徴兵)→健児制(傭兵)→兵→武士(専門兵)の過渡期的な「兵(つわもの)」の時代に刀伊の入寇があったと。また、律令国家から王朝国家を経て中世的な封建国家への流れの中でもこの事件を見ています。

 それにしても刀伊の入寇に対する中央政府の対応は、なんか現代にも当てはまりそうなグダグダな感じでした。この国、侵略されたら大丈夫かな。