「シャーロック・ホームズの護身術 バリツ」(エドワード・W・バートン=ライト)

 「バリツ」と言えば、シャーロック・ホームズが「少々かじった」「日本の格闘技」として有名です。でも、「バリツ」なんて、日本の格闘技にはありません。語感として近いのは「馬術」ですが、もちろん馬術は格闘技じゃありません。まあ、馬同士の格闘技かもしれませんが・・・。ある訳書では「武術」ではないかと言っていましたが、武術は格闘技に限らず、刀槍術や杖術なども含んだ総合的な言葉ですので、さすがに違うでしょう。

 ところが、これではないかというものが現れ、直ぐに否定されたものがあります。それが「バーティツ」です。バーティツは、バートン=ライトが1898年頃に創設し、コナン・ドイルが「空き家の冒険」でバリツの話を書いた1903年には道場もあったようです。で、何故否定されたかというと、時系列的にホームズが知っているはずが無かったためです。ホームズがバリツを使ったとする「最後の事件」は1894年。その頃、バートン=ライトは日本でバーティツの元になる柔術を習っている最中でした。

 この本は、バートン=ライトが「バーティツ」を紹介した「ピアソンズ・マガジン」の訳です。同誌に掲載された写真も載っています。バーティツは柔術だけではなく、ボクシングやステッキ術と言った、いわゆる総合格闘技です。多分世界最初の。読んでみたら、結構面白い。というのも、「紳士の」護身術を目指しているためです。世紀が変わる当時のイギリスは、切り裂きジャックなどの事件があるような不安な時代でした。そこで、こういった護身術が流行ったようです。そして「紳士」なので相手を叩きのめすのを目的とせず、できれば相手が退散してくれるように、それでなければ相手を取り押さえるように戦うのです。勿論「紳士」ですから逃走など以ての外。

 格闘にはテコの原理を入れて相手を倒すというのを目的にしています。写真からわかりにくい所もありますが、文章で丁寧に説明しています。

 それはそうと、結局道場はあまり流行らず直ぐに閉めてしまったようです。その後、バートン=ライトは二度とバーティツを再開しませんでした。でも、この人、91才(1951年没)まで長生きしています。案外個人ではバーティツを続けていて健康的だったのかもしれません。