「天才作戦家マンシュタイン」(大木毅)

 ドイツ軍のエリート軍人エーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥の評伝です。新書とは思えない厚さですが、それでもいくつものエピソードを抜かなければならなかったと著者が書いています。

 タイトルが示す通り、著者のマンシュタイン評価は、「天才」ではあったものの、あくまで「作戦家」レベルまでの事としています。国家総力戦時代では、「天才戦略家」と言えるような人物は多分出てこないのでしょう。歴史を見ても、児玉源太郎なんかはそう言えると思いますが、それでも国家レベルでの戦略を担当したわけではないですしね。それに日本は総力戦と言ってもいい状態でしたが、対するロシアは局地戦レベル。いわば辺境戦争。今の時代は戦争をデザインするだけでは、もはや戦略家とは言えないのではないでしょうか。

 さて、本書では、CMJでも読んだ事があるマンシュタインに対する種々の疑問点も提示されています。そう、CMJとかで読んだ事がある。とはいえ、マンシュタインの生涯を通してみて見る事ができるので、CMJのコラムよりも、より深く味わうことができます。結構一気に読めてしまいました。

 マンシュタインが戦後に構築した国防軍無実という「マンシュタイン史観(本文中では『失われた勝利』史観)」についても触れらています。うん、先日書いた「史観」について、やっぱそうだよなぁと思ったのでした。

 

 それにしても、マンシュタインは80歳の誕生日も、85歳の誕生日もドイツ国民から祝われていました。翻って、日本軍人ではどうでしょうか。そんな人は1人しかいません。これは、ドイツではヒトラーに戦争責任を押し付けることができたのに対し、日本では軍部が悪いという論調になったためでしょう。軍人はドイツ程敬意の対象にならなかったのです。ちなみに、「そんな人は1人しか」というのは大元帥陛下の事です。