「王妃オリュンピアス」(森谷公俊)

 オリュンピアスとは、アレクサンドロス大王の母親です。大悪女として知られていて、「ヒストリエ」でも結構癖のある人物として描かれています。本当にそうなの?というのがこの本のテーマです。

 悪女と言えば、西太后則天武后、日本では、北条政子日野富子淀君などと言われていて、いずれも政治に口を出している女性です。クレオパトラも政治に口出ししていたけれど、美人だから悪女枠に入っていませんね。オリュンピアスも、アレクサンドロスの東征中や死後に政治に口出ししていました。こういった女性を悪女とするのは、男性が政治をやる、という当時の思想を反映しているのでしょう。さらに、オリュンピアスを殺害したカッサンドロスが、「こんなに悪い奴だったんだ」と宣伝したせいでもあるようです。

 アレクサンドロスの死後は、男たちは後継者戦争を起こしており、その話は結構読む機会があります。一方、残されたマケドニア王家の女性たちについては、誰それは誰に殺されたと言う事ぐらいしか知りませんでした。この本では、そういった女性たちにも目を向けています。うーん。結構面白い人生を送っているなぁ。まあ9人中8人が悲惨な最期を遂げていますが。

 森谷先生はちゃんとした研究者で、歴史小説家ではありません。なので、この本の内容は、多少の想像が含まれますが、史料に基づいて書かれています。こういった本は好きです。