「日本 戦争経済史」(小野圭司)

 「諸君らはクラウゼヴィッツをよく知っているが、戦争経済というものをご存じない」とヒトラーが言ったとか。一説では将軍たちを煙に巻くために、「戦争経済」という言葉をヒトラーが造語したというのもどこかで読んだ気がします。実際は存在する言葉のようです。

 ゲームとしては、SPIの「第一次世界大戦」(ダニガンデザイン)やタクテクス/GJの「ドイッチュラント・ウンターゲルト」(高梨デザイン)などが戦争経済をシステムのベースにしていたりして、「戦争経済」には興味があったのです。そこで、本書を読んでみました。

 とはいえ、経済と言っても、人や資源といったリソースに関する本ではありません。上記のゲームはどちらかと言えば、このリソースを含んでいますが、この本では経済の中の戦費というお金の話です。

 近代以降に日本が経験した戦争(戊辰戦争西南戦争日清戦争日露戦争第一次大戦・シベリア出兵、太平洋戦争)について、どうやって戦費を調達してきたかを、同時期の世界各国との比較で書かれています。

 面白い。そして世知辛い。

 戊辰戦争時、明治政府にはお金が全くありませんでした。そりゃそうだ。王政復古の大号令をしたと言っても、貴族様には何の資産もありません。なので、大阪城を接収して徳川埋蔵金(埋まっていませんが)を得るまでは借金していたのです。それでも足りないので西郷軍が江戸に進軍している途中で戦費が無くなって足止めされたというのも初めて知りました。ドラマなんかでは、錦の御旗を先頭に立てて(ちなみに最初は錦ではなかったらしい)「宮さん宮さん御馬の前で・・・」と威勢よく行進しているシーンがありますが、そんなことはなかったようです。

 日露戦争については、よく知られているように外債にも頼りました。最終的にそれが返されたのは昭和45年。日清戦争は内債だけですが、返還は昭和60年だそうです。太平洋戦争での借金も、まだ返還されずに貸借対照表に載っているものがあるとか。戦費は一瞬で使いつくされますが、それはどの国も借金で賄っているのです。通常の国家予算では払えないですから。そうすると借金返済のためにより長い期間予算をつけて返還していかないといけない。まあ住宅ローンと同じです。とはいえ、インフレとかがあると借金の額面が小さくなって得をしていたり・・・。

 結構専門的ですが、あまり細かいことは気にしないで読んでも大枠はわかります。戦争ってホントに金がかかるだけでいいことないです。孫子が拙速を貴ぶと言った通りです。プーチンもさっさと止めればいいのに。