『主計将校:1914』(ホビージャパン)

 この日記を書き始めて1年になりました。読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。今後も精進してまいります。

 

 『主計将校:1914』が出たというので買ってみました。「主計将校」シリーズは第二次大戦のものが出ていますが、こちらはあまり興味を引きませんでした。しかし「1914」となれば話は別です。第一次大戦好きとしては取り合えず買って見ないことには話になりません。

 このシリーズは「補給」をベースとした戦略級ゲームです。とはいうものの、他の補給ゲーム(ドイッチュラント・ウンターゲルトみたいな)とは違い、補給ポイントというものはありません。これらは勢力別のカードで表されています。

 「イギリス・アメリ」、「フランス・イタリア」、「ロシア」の協商国陣営と、「ドイツ」、「オーストリアハンガリーオスマントルコ」の中央同盟国陣営に分かれてプレイするのですが、この「」でくくられた国家(達)が勢力です。陣営⇒勢力⇒国家という分け方となり、カードは「国家」毎に、デッキは「勢力」毎に、勝利得点は「陣営」毎に分かれています。プレイの単位は「勢力」です。なので、参戦していないはずのアメリカも最初からカードをプレイできます。・・・ちょっと微妙。ただし、イベントカードなどでは、プレイする「国家」が指定されている場合もありますので、この時はその「国家のカード」を使う必要があります。

 マップは下図の通りで、西はアメリカから東はモスクワまで、北はカナダから南は中東までありますが、誰がカナダまで行くんだろう?星印が付いている目標エリアでもないのに・・・。

 丸付き星印が各国の首都で、ここから陸軍や海軍を置いてあるエリアが連続しているところまで補給が届いていることになります。とはいえ、孤立しても攻撃できないだけですし、カードによっては連絡線無しでも攻撃できるものもあります。・・・そんなに補給が重要視されていないような・・・。

ゲームマップ

 ターンは全17ターンで、途中々々で得点計算ラウンド(赤い所)を挟みます。多分、1ターンが1季節で、第1ターンは1914年夏、4~7ターンが1915年、8~11ターンが1916年、12~15ターンが1917年、16~17ターンが1918年の春と夏だと思います。得点計算ラウンドは、その年が終わったときに実施されるという事でしょう。

 さて、各「勢力」のカードデッキは別々にあります。そして枚数が異なります。この枚数は所謂「継戦能力」を表しているようです。よくカードゲームである「山札が無くなったら、捨て札の山をリシャッフルして山札にする」というルールがありません。つまり山札が無くなったら、もうカードを引けません。この状態で山札からカードを引くことが強制された場合は勝利得点からその枚数だけ点を減らします。まさに第一次大戦ぽい感じです。カード枚数は「イギリス・アメリカ」が49枚、「フランス・イタリア」が42枚、「ロシア」が34枚、「ドイツ」が53枚、「オーストリアハンガリーオスマントルコ」が38枚です。ドイツが一番多いですが、二正面作戦をしないといけないので結構大変です。

 カードの例です。イラストは全勢力共通です。なんというか、ウォーゲーマー的に突っ込みどころが満載なカードです。もしデラックス版が出るようなら、ぜひ実写写真を使って、らしいものにして欲しいものです。「陸軍の設立」、「海軍の設立」はそれぞれユニットをマップに置くか、防御用カートとして場に出します。「陸戦」、「海戦」はそれぞれ相手に攻撃を仕掛けます。「イベント」はそのもので、テキストに効果が書かれています。第一次大戦の知識があればフレーバーがわかります。「情勢」は表にして場に出し、最後まで残って効果を発揮します(テキストに書かれた条件を満たせば)。「経済戦争」は相手のカードを捨て札にします。前述のように、デッキ枚数が決まっているので無条件の捨て札は痛いです。捨て札からカードが戻ってくるイベントもあることはありますが。

カードサンプル

 ユニットは陸軍ユニットと海軍ユニットがあります。って、陸軍ユニットの形状は全部イギリス軍じゃねぇか。海軍ユニットはどう見ても客船だし。まあ、そう突っ込むのはウォーゲーマーだけでしょう。デラックス版が出るようなら、ドイツ軍の鉄兜の形状やフランス軍の軍装の塗装はぜひ前期と後期に分けてほしいものです。ついでに戦艦らしい海軍ユニットがいいな。

ユニットサンプル(左:イギリス陸軍、中央:アメリカ陸軍、右:イギリス海軍

 プレイ手順は、オーストリアハンガリーオスマントルコロシアドイツフランス・イタリアイギリス・アメリの順番に以下のステップを行います。

1.ドラフトステップ

 任意で手札2枚と、山札の中の「陸軍の設立」か「海軍の設立」カード1枚と交換します。

2.プレイステップ

 手札を1枚プレイします。

3.損耗ステップ

 準備済みの「経済戦争」カードを捨て、敵対陣営のカードを捨てさせます。捨てる枚数は「経済戦争」カードに書かれています。

4.準備ステップ

 手札から1枚「準備済み」カードとして裏向きに場に出します。この「準備済み」カードは次ターン以降に戦闘時の防御や、損耗ステップで使用します。

5.ドローステップ

 手札が7枚になるまで山札から引きます。

 

 何を置いても「陸軍の設立」や「海軍の設立」カードが必要です。で、これで設立した軍隊ユニットを使って「陸戦」や「海戦」カードで相手陣営を攻撃します。これらの枚数についても、国別に特徴があります。それぞれ「陸軍の設立」、「海軍の設立」、「陸戦」、「海戦」の順に数値を示します。

イギリス:4, 2, 3, 3

アメリカ:3, 2, 2, 1

フランス:6, 2, 4, 1

イタリア:4, 2, 1, 1

ロシア:9, 2, 5, 1

ドイツ:6, 3, 9, 2

A-H:6, 2, 2, 1

トルコ:3, 0, 2, 0

 陸戦の主役となるのがフランス、ロシア、ドイツ、A-H、海戦の主役となるのがイギリス、ドイツです。ドイツ大変

 

 セットアップ時、フランス、ロシア、ドイツ、A-Hが陸軍2つ、イギリスが陸軍1つに海軍1つを指定のエリアに置きます。アメリカ、イタリア、トルコは参戦していないので置きません。ロシアが首都から離れたセルビアに置いているのが特徴的です。フランスは17号計画のためでしょうか、ブルゴーニュに置いていてピカルディに置いていません。

ユニットのセットアップ

 それぞれの「勢力」は10枚カードを引いて7枚選んで3枚をデッキに戻しますが、最初は何をどう選んでいいかわからないので、7枚引くだけでも良いとルールに明記されています。また、「だーみだ、こりゃ」と思ったら1回だけ再度引くことができます。これを「マリガン」というのですね。初めて知りました。

 ではプレイスタートです。

 最初はA-H・トルコです。イベントカード2枚、情勢カード1枚、経済戦争カード1枚、陸軍の設立カード2枚、陸戦カード1枚来ています。

A-H・トルコの手札

 まずドラフトステップです。情勢カードと経済戦争カードを捨て札にしてトルコの陸軍設立カードを山札から探してゲットしました。次いで、プレイステップでイベント「ハンガリー王国防衛軍」をプレイします。このイベントではA-Hの「陸軍の設立」カードを1枚タダでゲットでき、準備済みカードを場に出し、ブダペストかチロルかガリシアにA-H陸軍ユニットを置けます。ブダペストはすでに陸軍ユニットを置いてあるので置けません。1エリアに同じ国は1つしかユニットを置けないのです。フランス・イタリアに圧力をかけるためにチロルに置きました。損耗ステップは準備済み経済戦争カードが無いのでスルーして、準備ステップで「陸戦」を準備済みカードにします。

 ここで、戦闘について。攻撃側は最初に手札から「陸戦」カードを出し攻撃を宣言します。次に防御側が「準備済み」の「設立」カードで防御します。「設立」以外にもカードの下部に盾マークがついているものを防御カードとして出せます。対して攻撃側は「準備済み」の「陸戦」カードを出して攻撃を続行します。「陸戦」以外にも矢印マークがついているものは攻撃カードとして出せます。そして防御側が・・・。これを繰り返して最後に残った方が勝利です。攻撃側が勝てば攻撃したエリアの敵ユニットを除去できます。が、戦闘後前進はありません。除去だけです。そのエリアを占領するには、次のターン以降に「陸軍の設立」カードでそのエリアに陸軍を置く必要があります。海戦の方も同じ方法です。また、陸軍ユニットが海軍を、海軍ユニットが陸軍を攻撃できますが、別途カードを1枚捨て札にしないといけません。さらに、障害地形(マップの茶色いエリア)に対する攻撃でも別途捨て札1枚必要です。かくしてどんどん手札が減っていきます。ある程度戦争準備をしておかないと、相手の防御で攻撃が止められてしまいます。

 さて、A-H・トルコの準備ステップが終了すると、7枚になるまでドローして、次にロシアの番です。ロシアの手札は以下の通りです。

ロシアの手札

 動員しかしてねぇ。「イベント」のセルビアモンテネグロの動員2枚を捨てて「陸軍の設立」カードを1枚ドラフトします。セルビアモンテネグロのカードはともにセルビアに陸軍を設置するカードですが、既に陸軍ユニットを置いています。不要です。そして経済戦争「ツァーリは我々を助けないだろう」カードをプレイして勝利得点2点ゲットします。・・・意味が解らん。ロシアの勝利者レーニンか?損耗ステップはスルーして準備ステップで「陸軍の設立」を準備済みカードにし、ドローして終了です。

 次はドイツです。手札は、「海軍の設立」、「海戦」×2枚、「陸戦」の他、イベント2枚、情勢1枚です。・・・海軍ばっかかい!

ドイツの手札

 ドラフトはスルーして、イベント「小モルトケが軍を動員して西進する」をプレイします。このカードは1枚「準備済み」にして、情勢カードをプレイし、陸軍をドイツ西部エリアか隣接エリアに置きます。シェリーフェンプランです(別にシェリーフェンプランカードはありますが)。情勢カードは1枚持っていますので、「海軍の設立」カードを準備し、情勢「レッド・バロン」を場に出し、ベルギーに陸軍を置きます。「レッド・バロン」カードは陸エリアに対する攻撃時に相手の山札から1枚捨て札にします。攻撃しないと効果がないカードではありますが、後半に山札が無くなった相手から勝利得点をむしり取れます

 少し巻きます。フランス・イタリア軍はイベントや情勢カードばかりですので、フランスの「陸軍の設立」をドラフトし、イベント「フランスの動員」をプレイしてピカルディに陸軍をイギリス海峡に海軍を置きます。一瞬プロバンスに置いてイタリアに圧力をかけようかと思いましたが、イタリアは友軍でした・・・。ドイツの攻撃が予想されるのでフランス「陸軍の設立」を準備済みカードにします。

フランス・イタリアの手札

 イギリス・アメリカはドラフトせずに、経済戦争「日本が青島のドイツ包領を攻撃する」カードで手札4枚捨てさせます。ドイツの手札は3枚になりました。これで攻撃する場合はかなり苦しくなります。ちなみに、次ターンのドイツ軍の番でピカルディ攻撃を行いましたが、フランスの準備済み防御カードのせいで攻撃は失敗しています。ドイツ軍に「陸戦」等の攻撃(矢印マーク付き)カードがあればよかったんですが・・・。手札が回復する第3ターンまで待った方がよかったかもしれません。

イギリス・アメリカの手札

 第1ターンの終了時は下図のようになります。セットアップからA-Hがチロルに、ドイツがベルギーに、フランスがピカルディとイギリス海峡に進出しています。このターンでは戦闘はありませんでした。勝利得点はロシアのイベントで2点協商国陣営が得ています。それぞれの勢力が1枚ずつ準備済みカードを、ドイツだけが情勢カードを場に出しています。全体としては動きがあまりなかった感じです。

第1ターン(1914年夏)の終了時の欧州情勢

 各勢力のプレイ自体はそんなに時間が掛かりません。プレイは1枚ずつですし、戦闘も準備が必要なので頻繁には起こりません。ドラフトやイベントでの捨て札を何にするかは結構悩みますが、相当な長考者がいなければ17ターンも一日あればプレイ可能です。各得点計算ラウンドで12点差があればサドンデスが決まりますが、イベントの勝利得点獲得以外に星印スペースと星印マーカー(イベントで配置する)の占領数で点が決まりますので、12点差は結構厳しいかもしれません。ルールブックのイントロで「4年以上にわたる人的・経済的損耗の後、この戦争は(何よりも倦怠感によって)ついに終結しました。」と書かれていますが、17ターン近くなるとプレイヤーも結構倦怠感が出るかもしれません。

 ウォーシミュレーションゲームとしてみた場合は、アメリカが1914年にプレイできるなどシミュレーションとしては微妙な箇所があります。「主計将校」という割には補給についてもさほど考えることはありません。どちらかと言えば、経済戦争カートによってどんどん無くなっていく手札や山札を見ながら、国力の枯渇する前に攻勢に出なくてはと焦る感じが第一次大戦のようでいい感じです。身と精神を削りまくるゲームです。

 

 第1ターンに史実ほど動きがなかったのはカードのドローの影響があると思います。シェリーフェンプラン、タンネンベルグ、17号計画などの攻勢できるイベントカードを最初の手札に入れるなどのハウスルールを作れば結構ダイレクトな動きをするかもしれません。またイタリアやアメリカなど参戦が遅かった国についても、カードを史実に即したターンに山札に入れるなどすれば、よりシミュレーション性が上がる気がします。

 

 ところで英語タイトルの「Quartermaster General」って、なんで「主計将校」って訳なんでしょうか。正しいのかどうかわかりませんが、主計将校って、何か戦略級にそぐわない感じがします。せいぜい連隊単位?