『奉天会戦』と『奉天』

 CMJ#163が来ました。そこで『奉天』(タイ・ボンバデザイン)と『奉天会戦』(CMJ#16、山崎雅弘デザイン)の比較です。と、言っても、来たばかりなので『奉天』の方はルールを読んでいません。まあ、『Last Stand:Rommel』(BANZAIマガジン第11号、タイ・ボンバデザイン)のプレイ経験がありますので、さほど問題ないでしょう。ルールの比較はあまりしませんし。

 

 まずはマップ。以前『奉天会戦』のマップの範囲が広いと書きましたが(対辺距離約4km)、『奉天』の方も対辺距離4.9kmなので、ほぼ同じぐらいです。ただし、『奉天会戦』はほぼフルマップですが、『奉天』はフルマップの3/4です。残り1/4はチャートとかトラックとかのエリアです。

 『奉天』は南端が遼陽ですが、『奉天会戦』は遼陽よりも20km南まであります。一方、北端は『奉天会戦』は新民府の北8km、『奉天』は24.5kmと、おおむね北側にシフトした感じです。また東西も『奉天会戦』では西側が海までですが『奉天』では海は切れています。一方東側は『奉天会戦』に入っていない営盤が『奉天』には入っています。つまり、全体として『奉天』のマップは『奉天会戦』のマップに対して北東側にずれています。これは、特に鴨緑江軍の存在に影響します。『奉天会戦』では鴨緑江軍はオミットされており、援軍として13ターンに登場します。にも関わらず、『奉天会戦』の開始ターンは2月23日です。一方、『奉天』の開始ターンは2月27日(第三軍の移動開始日)です。

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奉天』のマップ

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奉天会戦』のマップ

 ところで、『奉天』のマップを見て、センスねぇなと思ったのでした。このマップがオリジナル通りかどうかは、オリジナルを持っていないのでわかりませんが。

 

センスがない①

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謎の点線(左:『奉天』、右:『奉天会戦』)

 最初パッと見た時、この直線的な点線は「軍の作戦境界線」か、と思ったのでした。地形表を見ると「山道ヘクス」。・・・まあ、移動の本質に問題なければいいんですけど、センスねぇな。ちなみに『奉天会戦』の方は右側です。

 

センスがない②

 ヘクス全体地形として「山地」がありますが、その絵の中に「谷?」と思えるテキスチャがあります。当然「平地」との境界で切れています。センスねぇな。また、「谷?」の周りが暗い色になっていますが(多分「崖」を示している?)、「山地」内の高地の色と同じ感じです。センスねぇな。ちなみに、この「谷?」も高地も「山地」として扱い、移動・戦闘に全く影響がありません。つまり「山地」は全てASLで言う所のレベル1なのです。高地だからと言ってレベル2として扱いません。それに、「谷?」と「小川」がズレている所があります。センスねぇな。私は地図屋なので、こういった点が凄く気になりました。

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センスがない山地ヘクスの表現

 その他、『奉天会戦』の方は、村落までマップに載っています。一方、『奉天』は大きな都市だけ。このあたり、日本人デザイナーと外国人デザイナーの思い入れの差があるように感じます。何しろ、アメリカ人は横浜の位置に東京を持ってきたり、九州を無茶苦茶変な形にしたりしますから。戦史記事を読むときに、マップに詳細な市町村が載っていたりすると結構参考になるのです。ただし、『奉天会戦』における村落は移動・戦闘に何ら寄与するものではありません。

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奉天』マップ(遼陽から黒溝台)

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奉天会戦』マップ(遼陽から黒溝台)

 ターンは、『奉天会戦』は1ターン1日、2月23日から3月10日までの16ターン、『奉天』は1ターン2日、2月27日から3月10日までの6ターン。『奉天』の方が軽そうです。実際、ルールブックも、『奉天会戦』は9ページ、『奉天』は7ページ。まあ、段組みは同じですが、文字サイズは『奉天』の方が小さいので、もしかしたら分量は同じかもしれません。

 セットアップは、『奉天会戦』は以下の通り。中央がかなり密です。このご時世、あまりよくありません。それに私は不器用なので、あまり密なスタックは崩してしまいがちです。昔はSLのハイスタック対策としてピンセットが使われていたようですが、こちらもピンセットが欲しいぐらいです(それでも崩すでしょうが)。一方、CMJ本誌で見た『奉天』のセットアップは、なんだか日本軍がスカスカです。まあ、ユニットスケールが基本的に『奉天会戦』は連隊単位、『奉天』は師団単位ですから仕方がないかもしれません。このあたりも、『奉天』の方が、プレイ感が軽いようです。

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奉天会戦』のセットアップ
カンナエを狙ったのが解る気がする凸型

 ただし、『奉天』の方はステップロス方式ではなく戦力減少方式で、しかも、全部の戦力値のユニットがあります。・・・マジか。そんなわけでユニットの保存が大変です。全部まとめて袋に入れるとプレイ前に仕分けしなくてはなりません。たくさんの小袋に分けて入れる必要がありそうです。それはそれで大変です。最近はユニットトレーとか使わなくなったし。まあ、ユニットトレーは箱モノなら保存しやすいですが、ジップロックでは入れにくい。この戦力減少方式については、ユニットを管理する(置いておく)シートが付いています。なら、このシートを応用して戦力値の管理をすればいい気がします。マップ上には最大戦力値のものを置き、戦力が減少する毎に管理シート上で戦力値最小のユニットをマーカーとして示すのです。・・・そうすればカウンターシートを減らせたのでは?絶対半分以下にできたはずです。何しろ日本の近衛師団は12戦力、つまり12カウンターあるのですから。

 

 さて、『奉天会戦』をセットアップしたので、ちょっとだけ動かしてみました。『奉天』の方は、ルールと本誌のリプレイを読んでから・・・。

 『奉天会戦』はチットプルです。日露両軍の移動チット(各軍毎)と戦闘チットがあります。引かれたチットの行動を行います。つまり移動チットなら移動だけ、戦闘チットなら戦闘だけです。戦闘はマストアタックですが、「陣地」にいればメイアタックです。

 いきなりロシア軍戦闘チットが引かれました。セットアップ状況では中央以外は接敵していません。また、中央のロシア軍は「陣地」にいますので、戦闘は強制されません。せっかく「陣地」にいるのに攻撃に出るのも何ですので、損害を受けない砲撃だけ行います。その後、日本の第二軍、第四軍の移動チットが引かれますが、ほぼ接敵しているので接敵していないユニットだけ移動します。ロシア軍も第二軍の移動とクロパトキン特別移動(4ユニット自由に移動)が出て、ついに日本軍戦闘チットが出ました。・・・本来、両翼にいる第一軍と第三軍が包囲行動を行っているはずなのに、いきなり戦闘です。うーん、おかしくない?確かにチットシステムは、そのランダム性が肝なのですが、実際の軍事行動を考慮するなら、初期配置から移動して戦闘が始まるはずです。最初から戦闘状態でゲームが始まるならいざ知らず。ちょっと惜しい。第1ターンの特別ルールで、移動チットがすべて引かれる前に戦闘チットが出たら、カップに戻して引き直すとかにすればよかった。自軍の移動チットがすべて出た後で引かれた場合に戦闘チットが有効になれば、この問題は解決です。デベロップメントの段階で、極端なチット引きについても考察すべきだったでしょう。私は、どちらかと言えばゲーム的なものよりも、実際の軍事行動はどうかと言った事に軸足を置きます。そうでないとシミュレーションではなく、ただのゲームになってしまします。

 さて、『奉天』の方はどうでしょうか。楽しみです。