『No Motherland Without』(Compass Game)です。Motherlandとかいうと、何か独ソ戦ぽい感じがしますが、このゲームは第二次世界大戦後の北朝鮮のキム三代の生き残りをかけたゲームです。
このゲームはカードドリブンですが、いわゆるウォーゲームではなくシミュレーションゲームに当たるかと思います。朝鮮戦争はありません。
プレイヤーはキム家当主と西側諸国(というか多分アメリカ)です。キム家当主は、金日成、金正日、金正恩の三代です。全7ターンのうち、1~3ターンが金日成、残りが正日と正恩です。
ところで、いつから金日成(キンニッセイ)をキムイルソンというようになったのでしょうか。私が小さい頃はキンニッセイだったと思います。金大中もキンダイチュウであってキムデジュンではなかった。これはマスコミの陰謀か?発音をその国のものに近づけるというなら、なぜ毛沢東はマオツォートンとしないのだろう?マスコミはおかしい。
閑話休題(それはさておき)、このゲームでは、キムさんは国内のインフラとかを整備しつつ、一所懸命に弾道ミサイル研究をします。時々、エリートを粛正したり脱北ルートを潰したりします。一方、西側は脱北を支援したり、インフラ改善の邪魔をしたり、国際社会に北朝鮮の不法行為をアピールして国際動向を西側に有利に持って行ったりします。
ゲームは第7ターンが終わるか、No Motherland Without Youイベントカードが2枚出ると終了になります。その時、北朝鮮におけるキムさんの威信高いかスコアが高い方が勝利します。北朝鮮の威信が4段階のうち最も高いときにミサイル発射テストイベントが行われると、「将軍様万歳」でサドンデスです。一方、威信が最低値を下回ると西側の勝利です。
ゲームマップです。左上の世代マップ(Generation Map)は三世代に分かれていて、それぞれの肖像画がエリートや脱北者になる可能性がある人を示しています。その下は脱北ルートマップ(Defector Map)です。中国経由で韓国に行ったりモンゴルに行ったりします。モンゴルに行く場合、事故死する可能性があります。左下が国際動向(Global Opinion)トラックです。国際動向が西側か北朝鮮側になるほど有利な補正等が受けられます。中央の地図にインフラ改善マーカーを置くことで発展状況を示します。また、インフラの整備レベルが高くなると、一番左の弾道ミサイル研究トラックでレベルの高い研究を行えるようになります。
右の方を見ると、生活水準や配給トラックが北朝鮮市民の状態を示します。また、予備と書かれているところはアクションポイント(AP)を溜めておく場所です。右下の永続的なイベントトラックは、捨て札にしないでゲーム中効果があるイベントカードを置きます。
ゲームシーケンスは「ドローフェイズ」、「アクションフェイズ」、「解決フェイズ」、「クリーンアップフェイズ」に分かれています。
ドローフェイズでは、各陣営の手札が8枚になるまで補充します。
アクションフェイズでは交互に手札をプレイしていきます。どちらが先にプレイするかは西側が決めます。アクションはアクティビティ、投資、イベントカードのプレイがあります。アクティビティは、APを使って前述のインフラ改善マーカーの配置や脱北などを行います。投資は予備トラックにAPを溜めます。イベントカードのプレイはそのままです。イベントカードには、イベントとAP値が書かれており、どちらかを使います。この辺は通常のカードドリブンと同じです。北朝鮮の威信が高い状態でミサイルテストイベントが起これば北朝鮮のサドンデス勝利です。
解決フェイズでは、北朝鮮の威信を確認します。インフラ改善とエリート数が生活水準トラックに記載された数よりも低いと威信が下がります。威信が最低値を下回ると西側のサドンデス勝利です。
クリーンアップフェイズでは、不要なマーカーやカードをマップから除去します。
本ゲームの肝は弾道ミサイルです。核開発でも、拉致被害者でもなく。北朝鮮はミサイル開発のためにカードを伏せておき、西側は開発状況を探るためにミサイルテストイベントカードをプレイします。必要なミサイル研究レベルにない場合はそのままですが、もし達していた場合はミサイル発射テストが成功し、威信が上昇して国際動向は西側寄りになります。そして伏せておいたカードは捨て札にされます。この部分、少しわかりにくいです。要するに秘密にしていた研究状況(カードを伏せておきます)がどんなものか西側に示す(ミサイルテストイベントは西側も北朝鮮もプレイできます)。成功すれば国内の威信は上がりますが、国際社会は非難囂々ということです。国際動向が西側寄りもしくは北朝鮮寄りになると、それぞれ良いことがあります。
ところで、このゲームの肝が弾道ミサイル開発ということは、いかにも西側的だなと思います。日本から見ると、核開発や拉致被害者の方がウェイトが高いのでしょうが、核を開発しても、それを運搬する能力がなければ西側(アメリカ)の脅威にはなりません。
話は変わりますが、北朝鮮に対する日本政府と拉致被害者家族の対応は間違っていると思います。相手に何かさせない場合は経済制裁のような強硬手段が有効だと思います。一方、相手に何かしてもらう場合は宥和政策の方が有効です。誰でも、自分を敵視している人に対して何かしてあげようとは思わないでしょう。例えば、ナチスドイツに対するチェンバレンの宥和政策は、ナチスドイツが他国の領土に侵攻させないという意味では間違った対応です。一方、拉致被害者の場合は、北朝鮮に調査や返還してもらう立場にあります。なので、拉致被害者家族はあまり敵対的な言動を言わない方がいいと思います。実際、小泉元首相が北朝鮮を訪問したからこそ、何名かが帰国できたのです。これこそ、宥和的な行動が相手に何かしてもらうのに有効だった例でしょう。
まあ、そんなわけで、弾道ミサイル開発を肝として、北朝鮮内のキム一家の威信が勝敗の分かれ目になるということです。このゲームのイベントカードは、金日成時代の52枚と、それ以降の77枚で構成されています。私が知らないものから、金正男の暗殺まであります。もう少し後ですとトランプ大統領電撃訪問とかあったかも。文在寅選挙勝利まではあります(2017年)。イベントカードの歴史的内容についてはルール末に書かれています。
現在進行形の争いがテーマであることから、まあ拡張パックとかも出るかもしれませんが、逆に勝利の定義が今一つあいまいな感じもします。とはいえ、キム王朝はこの後どうなるのでしょうか。最近「ブルボン朝」(佐藤賢一)、「最後のロシア皇帝」(植田樹)を読みましたが、ルイ十六世もニコライ二世も国民に殺されました。私が思うに、これは一個人に権力が集中した体制であり、国民の怒りや憎しみの矛先が個人に行ったためでしょう。そう思うと、キム王朝もあまりいい結末を迎えないような気がします。