『Versailles1919』(GMT)の紹介

 第一次世界大戦終結した後、戦後処理を話し合うために開かれたのがベルサイユ会議です。この会議をシミュレートするのが、今回紹介する『Versailles1919』(GMT)です。あれから100年、記念すべき年として発売されました。と、箱絵にかいてあります。

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Versailles 1919の箱絵

 さて、ゲームですが、プレイヤーはアメリカ、イギリス、フランス、イタリアの四大国でプレイします。イタリアが大国?と言うと色々思うところがあるかと思いますが、それはそれ。ちなみに、日本はノンプレイヤーカントリー(NPC)の代表として会議に影響を与えます。1~4人までプレイできますが、3人の場合はイタリアが抜けます。2人の場合はさらにアメリカが抜けます。

 1人(ソロ)の場合は特殊なプレイになります。特にどこの国を担当するというわけではなく、いくつかの国を渡り歩きます。このソロプレイシステムは結構独特で、プレイブックにも詳しくサンプルプレイが載っています。

 

 下図がマップボードです。左下が現在討議中の問題を置く「議事テーブル」、その上が審議を待っている「待合室」です。待合室では問題の資料を抱えて椅子に座っている担当者が目に浮かびます。右上は「地域トラック」で5つの地域の不安定度などが表示されます。不満がたまると「オラ達を馬鹿にすっでねぇ」と言って武装蜂起されます。右下の細長いトラックは「国民幸福度(条約に対する満足度)」を表しており、勝利条件に関係します。最初は20で、基本的にどんどん減っていきます。あまり国民が満足しない条約に調印すると、焼き討ちとかされかねません。その他、5から数字が書いてあるのが「動員解除トラック」で、軍隊の動員を解除すると数字の分だけ幸福度が上がります。その右隣は使った影響力キューブを置いておく「消耗ボックス」です。VASSALの画面なので各プレイヤーがゲットしたカードを置く場所や戦略カードを置く場所があります。

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マップボード(VASSALの画面)

 ゲームでは、いろんな地域の問題(Issue)が議題に上がります。これら一つ一つが53枚のカードになっていて、議事テーブル(2枚)と待合室(3枚)に置かれます。なんか見ると、これどこの話?って感じのものがたくさんあります。プレイブックにはこれらのカードの歴史的説明が書いてありますが、まだ和訳していません。

 プレイヤーは議事テーブル上の問題を解決することでそのカードをゲットできます。カードをゲットすると、そのカードに書かれている複数の議決結果の中から好きなものを選べます。例えば・・・

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問題(Issue)カードの例(プロシア

 右側に3段に分かれているものが議決結果のオプションで、ゲットした人が好きなものを選べます。プロシアに権益を持っているのはフランスとアメリカですが、別にフランスやアメリカがゲットする必要はありません。イタリアがゲットしてもよいのです。では、イタリアはどうするか。

イタリア「おお、プロシアをゲットしたぜ。ど・の・議・決・結・果にしようかな(ちらっとフランスとアメリカを見る)」

フランスヘタリアさん、ヘタリアさん。フランスに有利な一番下がお薦めでっせ。もしそれにしてくれたら、アルプスを越えてロンバルディアには侵攻しまへん。(それはさらに100年以上前の話だ)」

ヘタリア「おお、それは助かる。ではそのように」

 といった感じで取引に使えるのです。しかも恐ろしいことに、口約束したことは、そのターンに実行する場合は破ってはならないが、将来(次のターン以降)の実行の場合は破ってもよいというルールがあります。つまり、ヘタリアプロシア問題でフランスに有利な議決を選んだとしても、次のターンのフランスの手番ではルイ十二世がナポリ公国を攻めても一向にかまいません(いつの話だ)。ヘタリアとしては、アメリカに白い目で見られ、フランスには無視され踏んだり蹴ったりです。「おのれクレマンソー、黄色作戦の際には後ろから攻め込んでやる」と思ったかもしれません。

 問題カードをゲットするには、最も高い影響力がなければなりません。これはキューブで示されており、各国15個のキューブを議事テーブルと待合室に置かれたカードの上に置いて影響力を誇示します。次に置く場合は、前に置かれた各国のキューブよりも多くないとダメなので、影響力が高騰していきます。各ターンの手番では2枚以上のカードの上に置かないといけませんので、議論は白熱していきます。が、置けない場合は、「問題を解決する」と言ってカードゲットの手順に入ります。あるいは、問題が解決すると影響力キューブは消耗プールに送られますので、使えるようにするために黄色いドリンクを飲んで「回復」を行います(黄色いドリンクはゲームに含まれません)。

 問題カードのほかに、イベントカート(46枚)、戦略カード(10枚)があります。イベントカードには、関連する人の肖像画が書いてあります。フォッシュ将軍とかレーニンとか、ファイサル王子とか知った顔も見かけますが、知らない人が多いです。勉強不足ですね。イベントカードは、議事テーブルと待合室に置かれます。

 イベントカードには、カードが登場する(待合室に置かれる)時に発生する危機イベントと、問題が解決された時に発生する会議イベントがあります。危機イベントは大体が地域の不安定化や武装蜂起などが発生します。まれに安定化する場合もあります。会議イベントは地域の不安定化の増加や現象が起こります。自分が影響力を持つ地域以外の不安定化を増大させれば、そこが武装蜂起する可能性が高くなります。

 戦略カードは、最初に武装蜂起がおこったときに、5枚並べられたものから各国が選択します。「我が国は、戦後世界をこのように構築する!」と宣言するわけです。そして、ゲームでその戦略にのっとった行動をとればVPがもらえます。

 以下がイベントカードと戦略カードの例です。

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イベントカード(左)と戦略カード(右)の例

 ゲームでは、議事テーブルに置いてある2つの問題のいずれかを解決すると(どこかの国が「解決」を行う)、イベントカードの会議イベントを実施して、問題カードはゲットしたプレイヤーに、イベントカードは捨て札の山に置かれます。空いたところに待合室から問題カードとイベントカードが1枚ずつ議事テーブルに移動します。これは手番プレイヤーが行います。そして、空いた待合室の所に、問題カートの山から2枚引かれたうちの1枚を置き、もう1枚は捨て札にされます。つまり提議された問題が審議もされずにポイ。「オラ達を馬鹿にすっでねぇ」って声が聞こえそうです。まあ、捨て札された問題でも審議に戻ることがありますが。よくいますよね。会議で討議が終わったことを蒸し返す人って。

 イベントカードが待合室に置かれると危機イベントを実行します。この結果、この地域に最も影響力を持っている(問題カードをたくさん持っている)プレイヤーに対して武装蜂起することがあります。「オラ達を馬鹿にすっでねぇ」です。武装蜂起されるとゲットした問題カードが未解決にされます(VPを失う)。そして、そのカードは入札で所有者が変わる可能性があります。この時使うのが各国3つずつ持っている軍事ユニットです。つまり軍隊の力で武装蜂起を押さえつけてしまうのですね。

 このようにして、問題を解決してVPを稼ぎつつ、蜂起を抑え、国民の幸福度を下げずに、を繰り返してゲームを進めます。問題カードの解決結果は大体が他の国の幸福度を下げるものですので、足の引っ張り合いになります。

 

 少し長くなりましたが、ゲームとしては影響力キューブを順番に置いていき、時たま発生する蜂起に対処し、・・・なので、2時間ぐらいで終わります。討議する問題も半分は捨て札行き。しかも、ゲームの長さによって「終了カード」を問題カードの山の途中に挟むので(位置が決まっています)、52個の問題全部に対応するわけではありません。と、言うか、そんなに問題を残していたのですね、ベルサイユ会議って

 慣れたら終了カードの位置がわからないようにシャッフルしたり、実時間で2時間とか決めたりしてプレイしても面白いかもしれません。勝ち逃げを狙って牛歩戦術を取る人とか出そうです。でも、そんな人は戦後世界で爪弾きにされるでしょう(ゲームをプレイしてもらえなくなる)。

 そうなのです。このゲームはみんなで協力して、良い世界を築くものなのです。でもまあ、問題カードは他の国の幸福度を下げるものばかりだから、にっこり笑って懐に匕首でしょうか。

 

 日本では、第一次世界大戦の戦い自体のゲームはありますが、その後、和平のためにどんな努力がなされたかあまり知られていません。当時の資料を見ても、日本は自身の権益に関係する問題は熱心でしたが、英語力の無さもあり、それ以外の問題はほとんど無関心だったそうです。その結果が第二次大戦です。国際社会の一員として、もっと注意深くいろんな問題に真剣にかかわるべきだったのでしょう。他の家のことに口を挟まないのは日本の美点かもしれませんが。

 そんな思いでプレイしてみてはいかがでしょうか